2015年8月18日火曜日

2015.7.23~26白馬岳 清水尾根~祖母谷~唐松岳 餓鬼山尾根(個人山行)

 
 
日程:2015.7.23~26


メンバー:N


 ほかの山岳部員がヨーロッパアルプス遠征をする中、資金不足のため参加できなかった私。彼らが遠征中になにか面白いことをやってやろうと思い、以前から行ってみたかった、祖母谷を起点とした2つの尾根、白馬岳の清水尾根と、唐松岳の餓鬼山の尾根をつないでやってみることにした。どちらも非常に長くコースタイムがかかり、人があまり入らない道だそうだ。時間がかかる理由は黒部側の起点である祖母谷が標高780mと、登山口としてはかなり標高が低いためだ。黒部川がいかに深い谷をつくったのかうかがい知れる。
 行先に決定してから白馬村のホームページを見てみると、清水尾根、餓鬼山尾根ともにルート整備が完了していないとのことだったので、前日に祖母谷小屋のご主人に電話で問い合わせたところ「いけるいける!」とのことだったので催行決定したのだった。
 22日21:30に自宅発。24時過ぎに高速に乗ろうかとも考えたのだが、初日の行動時間が長いので早く着くことを優先した。安曇野の降り口にあるコンビニに寄っただけで休憩せず、翌1:10猿倉着。雨はすでに降っており、いやーな気分になりつつビールを一缶開けて仮眠。

7/23 天気終日雨
 3時に目覚ましをかけていたので一度起きたが、強い雨のため二度寝。再度起きたのが5時。さすがにあわてて出発準備をする。なんといったって、今日はコースタイムが14時間もあるのだから。登山届をだし、5:55猿倉発。雨は強い。6:40白馬尻。この少し先からアイゼンを装着し、白馬大雪渓を登る。濃い霧だが赤いマーキングがされておりコースを見失うことはない。ぐんぐん高度を稼ぎ、9:50頂上宿舎。ここまで約1500mの登りだったが、ほぼ4時間で登ってきた。よいペースだ。しかし、ここからまだ7時間のくだりが待っており先は長い。標高差にして1900mあるのだ。10時出発してもコースタイム通りで17時着か。急がねば。と、このときはまだ清水尾根のコースタイムを巻けると考えていたのだった。

 10:10頂上宿舎発。稜線は風が強い。旭岳方面へ分岐をわけ、稜線歩きである。さっそく雪渓の歩きがありまっすぐ進んでいくとルートを見失った。コースを戻りあたりを見回すとうすーく赤いしるしがついている。ルートに復帰し、稜線を歩く。霧のため思いのほか稜線の地形をつかみにくい。2万5千図を持っていてよかった。この後も2度ほどルートファインディングをした。一度などは結構危険な雪渓のトラバースをしたのに、全くコースではなく、完全に無駄な体力を使ったりした。そのようなことをしていたので結構体感的には歩いたと感じ、清水岳はもう過ぎたのだろうかと高度計で確認したが、高度がまだ清水岳よりも高い。精度が低いなーとか思っていると、12:25に清水岳についた。ヌ?!1時間40分のところを2時間15分かかってしまった。高度計は正確だったようだ。この時点でかなり雲行きがあやしくなってきていたが気を取り直し、まずは避難小屋まで急いでくだることとする。清水岳周辺は高山植物の花畑、池塘が点在し美しかった。雨でなければ。13:55不帰岳避難小屋着。きれいな小屋でシェラフまであった。ここで大休止をし、これからの激しいくだりに備えてずぶぬれになった靴下を替える。14:10発。ここまでですでに足を使い切ってしまっているため、歩き始めて30分経たないうちにすぐに休憩。こんなに疲れているのだったら避難小屋まで戻ったほうがよいのではないか?いや、今回の目的の一つには祖母谷で温泉に入るってのもあるし。また、今日抜けないと猿倉まで戻れないのではないか?なにより今すぐにでも温泉に入りたい!という気持ちがこのときは勝り行動を続行する。しかし、ペースは相変わらず上がらない。雨で木の根、石が油断するとすぐにスリップしてしまう足場となっているし、足の筋力がもう残っていないので少しでもバランスを崩すとよろめいてしまう。なによりも避難小屋より下部がトラバースの連続となっており、結構な斜度の斜面にへばりつかなければならない様な箇所が多数あった。そのような場所の中でも足場ごと崩れてしまう箇所が数カ所あり、時間ばかりがかかってしまった。特に百貫の大下りとされる箇所はロープの連続であった。かなり手に頼った歩き方しかできなくなっていたためか、斜度がきついところで一度スリップをし、「あぁ怪我したなぁ」と思う場面があった。落ちてるときはなんだかスローモーションに感じるものだ。が、ロープ末端に作られていたコブにうまくひっかかって止まった。軍手をしていたため、手の皮がむけずに済んだ。このあたりが標高1500m位で時間は17時を回ってしまった。まだ700m降らなければならない。ずっとトラバース気味で中々素直に高度を下げさせてくれない。もうビバークしようかなとか考えながら、ほとんど無意識のまま歩いて、倒木を越えて降り、2回転倒しつつ、これまでの人生でこんない辛いことがあっただろうかと本気で感じながら行くと、気が付けば最後のジグザグの降りに入っていた。終わりが見えたので最後の力を振り絞り、19時前に何とか林道との合流点に出ることができた。あたりはヘッドランプを出すか出さないかぎりぎりの明るさになっていた。なんか知らんが泣きそうになった。というか泣いた。そして19:20に祖母谷着。なんと頂上宿舎から9時間もかかってしまった。
 小屋で受付をしようと入るとご主人が落ち着いてからでよいと。さらに「ビール要るか?」と。こんな時間に雨の中着いたからおごりだと。ありがたい心遣いに感謝し、頂戴した。テントを張り、つまみとビールを持って急いで温泉へ。念願の温泉は湯加減が長湯するにはちょうどよく、1時間近く入っていたと思う。ビールはあっという間に無くなったけど。シャンプー、ボディーソープが常備されており、一日中歩いた汗を洗い流した。その後夕飯を作る気力もほぼないので、缶詰とマルタイラーメンの手抜き夕食を食べ、22時就寝。とても一日の出来事とは思えない、長ーい一日だった。


清水岳付近で咲き乱れるコバイケイソウ


ほんとっすね。でもきついよ!

不帰岳避難小屋。快適そうな小屋だった
やっとで着いた祖母谷



7/24 雨のち曇り
 6時起床。足が痛くてイマイチ寝られなかった。本当は今日唐松頂上まで行く予定だったが、前日がハード過ぎたので中間の避難小屋で一泊することとする。行動時間5時間ほどなので遅立ちすることとして、朝風呂という贅沢をする。小屋のご主人にルートについて聞くと、ほんとは晴れれば昨日今日で草刈りをする予定であったが、まだそれが済んでおらず不明瞭なところが多いけど、降ってくる連中もいるし、大丈夫だと。ここで注意しなければならないのは、ご主人が言う、「降ってくる連中」てのは多くても週に数人程度だろうということである。昨日の清水尾根でも歩いてるのは私だけだった。祖母谷起点の2つのルートは両方とも登山者一杯の北アルプスの一般ルートとは一線を画すものだと昨日つくづく痛感させられた。そういった意味ではご主人の大丈夫の言葉には結構不安が残るのではあるが。
 10:00発。雨は止み、晴れ間も見えてきた。しばらくは南越沢沿いに高度を上げていく。序盤は苔むした石の歩きで歩きづらかった。沢沿いは高巻がほとんどで幅50㎝くらいの道が切られているところもあるが大体は草が鬱蒼と茂っているところを沢沿いに検討をつけて歩いていく。空気が濃いというか、蒸し暑かった。一か所デブリで完全に崩落している箇所があったが迷うことはなく尾根取りつきに11:50に着く。ここからは水場がなく(本当は峠付近にあった)3リッター水を担いで登って行かなくてはならない。急登を登りきり南越峠に13:20。トゲトゲした葉っぱが掌に刺さったり、腕を引っかいたりして痛かった。休憩するとすぐに蚊が寄ってくるので休憩の度に蚊取り線香をつけていた。峠の先もしばらく急登で14:25餓鬼の田圃。草の生い茂る池塘が規模は小さいもののあった。そこからはゆるゆると登り15:50に餓鬼山避難小屋着。案外時間がかかった。早立ちしても下部で迷ったかもしれないし、半分で切るのが正しいのかもしれない。とりあえず濡れたものを全てザックからだし乾かした。近くに池があるせいか、蚊が黒い塊となって見えるほどおり、避難小屋の入口に蚊取り線香を置き、小屋の中で食事を作った。この日は玉ねぎとウインナーを入れたトマトスープと海藻サラダを食した。小屋には連絡帳が置いてあり2014年からの使用となっていたが、2年目にも関わらずまだ3ページ目だったのでコメントしておいた。小屋の裏手からは五龍が池谷尾根を従えてそそり立って見え、剱・立山方面も見ることができた。21:30頃就寝。またも足が痛くよく眠れなかった。


朝風呂、最高っす

下部の道

餓鬼の田圃

少しでも軽くするため乾かす。蚊がアカン・・・

小屋裏手から五龍
夕飯。ビールがあれば




7/25 曇りのち晴れ
 3:20起床、念入りにストレッチをし4:25発。急な登りで梯子が連続しており、ところどころ切れ落ちている箇所があるが森林限界ではないため高度感はない。5:15餓鬼山。今日行く唐松岳はまだはるか先だ。ここから一気に降る。これまでのコースタイムを挽回するため急いで降る。一時的に稜線の歩きとなり、展望がよい道が続く。この尾根からはやはり五龍が主役だ。下部からは鋭角に見えていたが高度を上げ、池谷尾根と平行に歩くようになるにつれどっしりとした山容を見せるようになる。6:20大黒銅山跡。蚊がすごいので休憩せず先を急ぐ。やっとで唐松の主尾根に取りついた感のある急登となり高度を稼いでいく。8:30に2300m地点。この上部から稜線をトラバース気味に登る道となり岩稜の歩きとなった。小屋が見えたが中々近づかない。途中水場があり、小屋で買うのもしゃくなので1L補給した。9:25唐松山荘。まあまあのペースで登ってきた。一昨日の白馬頂上宿舎を出てから一人の登山者とも出会わなかったが、後立の主稜線に出た途端にものすごい登山者の数である。そりゃそうだよね。展望もよいし、黒部と違って長野側からはアプローチも短いし。私も基本的には楽なほうが好きだ。だが落差に驚いた。大休止し9:50発。この後まだ天狗まで5時間で鑓温泉までだと8時間だ。急がねば。しかし唐松頂上への歩き出しで左膝に違和感が。曲げるたびに痛みを感じる。歩いているうちに痛みになれるだろうと判断し唐松山頂を出発した。高度感のある岩稜の登山道ではコースタイムを巻けると踏んでいたが、痛みは全く引かないし、慣れることもなくどんどんと増すばかりだ。10:30不帰2峰。遅い。なんということだ。唐松山荘に戻って八方尾根を降ったほうがよいのではないかともおもったが、やはり歩いてスタート地点に戻りたい気持ちが強い。また、鑓温泉も楽しみだし。何度も左膝を伸ばしたり叩いたりしたが、痛みは変わらなかった。意を決して歩き出すが2峰の降りだしの鎖場で本当に左足に荷重することができなくなってしまった。そのため、左足以外の3点で、ものすごく手に頼った下手くそな降り方でなんとか降りた。最後の核心である不帰の瞼も同じような方法で降りた。なんでもない道が本当に辛かった。少しでも大きな段差があると後ろ向きだったり、お尻をついたりしてなるべく左足に体重をかけることのないように注意しながら歩き、12:40キレット。本日中の鑓温泉はさすがにもう無理だ。ここから天狗の頭まで約400mの登りである。全く登高意欲が湧かないがとぼとぼと歩き出す。登りでも左足は右足より前に踏み出せない状態となっている。ゆるゆるとカタツムリのように動いた。14:20、やっとで天狗の大下り開始地点に到着。もう急登はなく平らな道であることを喜んだが、全くペースは上がらず15:40天狗山荘着。テン場は既に一杯で小屋前の微妙なところに張らざるを得なかった。しかしテン場代は千円。高い…ビールを購入し夕飯を作る。とにかく筋肉の回復を期待し持ってきていた肉系のものを全部食べた。足が痛いし、人が多いので(こういう場で単独行していると人見知りの面が発揮される)外を出歩く気にもならないのでテント内でひたすらストレッチした。19:45就寝。







ここで中間て、どんだけ長い尾根だよ…

餓鬼山頂付近。切れ落ちてるなー

尾根の最後。意外とトラバースが長い
唐松
よくあるカット

適当に撮ってもらったやつ



天狗の頭を見上げる。これから登るのかよ…

いやー、よう登ったわ





7/26 快晴
 2:50起床。星空がきれいだったのでぼーっとテントから顔をだし、眺めた。4:35発。すでにかなり明るく、山々がオレンジ色に染まっていく。いつみても美しい眺めだ。今回稜線で朝を迎えたのは1日だけだった。景色は美しいが膝の痛みは全く回復しておらず、歩き出しからのろい。5:00鑓温泉への分岐、5:30大出原。痛みはだんだんとひどくなっており、膝を曲げることはほとんどできない。途中、大学生や年配のパーティーに次々と追い抜かれ、悔しい思いをした。7:30鑓温泉着。小屋番のおじさんに歩き方を指摘され、こうなってしまった経緯を話すと、馬鹿だねーと褒められた。温泉に入るなら長湯はするなとアドバイスもされた。そして、温泉を独り占めした。日の光が水面に反射しきれいで、気分も爽快だ。8:10発。ここからピッケルを杖代わりに使う。雪渓を抜けトラバースに入るとさらにペースは鈍化した。全く息は上がっていないが思うように歩けないもどかしさを初めて感じた。10:35小日向のコル。一昨年同じ道を通っているが時間は2倍以上かかっている。非常に暑く、水をよく飲んだ。ここからもとぼとぼと降りていき、12:45に猿倉に戻ることができた。帰りは八方の湯に入り帰宅20:20。


朝日である

剱・立山

気持ちがいいなぁ

雛ライチョウ

お母さんライチョウ

かしきりだー



 その後、2週間経過しているがまだ膝は治らず。時間のかかった清水尾根については、白馬村HPの登山情報が8/5に更新されており、今年は崩落激しくザイルが必要で10~12時間時間がかかるとのことだった。道理で明らかに無理のある箇所があったわけだ。
体力の限界を超えた感のあるハードな山行で怪我もしたが、記憶に残る濃い時間を過ごすことができたのだった。

2 件のコメント:

  1. お疲れ様でした。素晴らしい体力登山です!単独行にさらに磨きがかかりましたね。これからも楽しみにしています(^^) 坂本

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  2. 清水尾根。昔、大学の山岳部で冬に行ったことあります。夏でも苦行ですね(^^;)
    今となってはとても真似できません。でも部に入っていても単独行はいいですよね。
    上野(か)

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