2014年5月18日日曜日

前穂高岳北尾根(残雪期)

2014年5月3日(土)~5日(月)(2日夜行) @春合宿
■ 天気:晴れ

■ メンバー:河合、長谷川、廣井、他2名(紫朋登行会)

■ ルート:5/3 沢渡駐車場、上高地~涸沢
       5/4 涸沢~5.6コル~北尾根(5峰~2峰)~前穂高岳山頂(1峰)~岳沢
              5/5 岳沢~上高地、帰宅


【山行報告】

※2日(金)夜行で横浜を出発、午前2時頃、沢渡駐車場に到着。(車中泊)
  翌朝、別車両で来た仲間と合流し、春合宿メンバー全員集合。
※今年の春合宿は、前穂北尾根チーム(本報告)と奥穂南稜チームの2班に分かれて実施。

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◎1日目(5/3(土))
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5:00 起床
各自で朝食を食べ、出発の準備をはじめる。
ここで、まさかの事件発生!岳沢BCに張る予定だった宴会用大テントのポールがないことが判明。
当初は両チームとも全日程テント泊の予定だったが、急遽、北尾根チームが初日を小屋泊、3.4コルでビバークになった場合はツェルトで対応、という計画に変更する。

6:30 いざ、上高地へ
沢渡駐車場からワゴンタクシーで上高地へ。
途中、メンバーの何人かがトイレをがまんできなくなり、運転手さんに頼んで大正池でちょっと止めてもらう。運転手さん曰く、顔つきで限界がわかるらしい。
車窓から見える穂高の絶景に、皆翌日の登山への期待が高まる。
天気は快晴、今年は例年より雪も少ないらしい。雪と岩のコントラストがきれいだ。
これは完登するしかない!
それぞれの意気込みや計画を語るうちに、上高地に到着。

7:15 上高地出発
荷物を整え、南稜チームは岳沢へ、北尾根チームは涸沢へ。
それぞれのチームに分かれて出発。健闘を祈る!

写真: 河童橋と穂高連峰

10:30 横尾(1,620m) ※ここから北尾根チームの報告
上高地から横尾までは平坦な道が延々と続く。長い。
樹林の合間、梓川越しに時折姿を現す穂高の岩壁の数々を眺めながらこまめに休憩をとる。
明神館、徳沢と進むに従い、徐々に観光客は少なくなり、雰囲気も「山の世界」に変わってくる。
昨年、徳沢あたりにサルの大群がいたので今年もいるかと思ったが、いなかった。

10時半、涸沢への分岐である横尾に到着。
こいのぼりが横尾大橋に泳いでいる。
涸沢へは、横尾から3時間ほど。もうひと頑張りだ。
休憩を取り、のんびり、景色を楽しみながら涸沢へ向けて出発。


 写真:こいのぼりとクライマー

写真: 橋の向こうは山ヤの世界!

 14:30? 涸沢ヒュッテ到着
横尾大橋から少し歩くとすぐに残雪が現れはじめる。
雪はかなり少なく、昨年は雪に埋まっていた橋が完全に地上に出ていた。
横尾から涸沢への長くてダルい登りを歩きながら、「絶対に敗退したくない(またここを通りたくない)」と決意を新たにする。
小屋への最後の登りはそこそこの急登で、最後の最後にかなりこたえる。

14時半、涸沢ヒュッテ(2,309m)に到着。
ビール、ジュース、おでん…なんでもある天空の楽園。部屋もきれいで快適。
そして、みんな荷物を軽量化しているのかと思いきや、出るわ出るわ、ワインのボトルやらシジミの佃煮やら、いろいろ。
先輩たち、偉大すぎる。

時折、なぞの地震(槍平震源の群発地震だったらしい)で小屋が揺れる。
登山歴50年の先輩も、「山でこんな地震は初めて」という。

ビールとジュースで乾杯し、夕飯(自炊)を食べ、ゴロゴロしてから18時に就寝。

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◎2日目(5/4(日))
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3:30 起床
同室のパーティを起こさないよう、静かに起床。
朝食の「コーンスープ餅」を作る。自炊場は屋外のため、寒い。
まだ暗い中、北尾根に向かうヘッドランプの灯りが涸沢カールに点々と続くのが見える。
これは、北尾根渋滞の予感。急がないと!

5:00 涸沢を出発
荷物をパッキングし登攀装備を身につけ、準備完了。
外はすっかり明るくなっていた。
天気は快晴、風もない。絶好の登山日和だ。
昨年は強風と降雪のため(それだけじゃないけど(省))敗退したが、「今年は完登できる!」、そんな気がした。
涸沢カールに射し込む朝日が、山肌を薄ピンク色に染めている。
最高の一日になりそうだ。

写真: 涸沢カールのモルゲンロート(朝焼) 
※白い筋のように見えるのは雪崩の跡(デブリ)

6:50 5.6コルで小休止
涸沢から5.6コルまでは2時間程の登り。
デブリの合間を登っていく。上部は急登だ。
雪が締っていたため歩きやすく、中1本の休憩で5.6コルまで上がることができた。

5.6コルは平で広く、ビバーク跡もあった。
ややゆっくり休憩を取る。リンゴサイダーがおいしい。
休憩が済んだら、いよいよ北尾根にアタック開始。

5峰は緩やかで、それほど緊張する場面はない。
一部、ややナイフリッジになっている個所があるものの、天候がよく雪質もよかったのでザイルは必要なかった。
右は涸沢、左は上高地、どちらを覗き込んでも楽しくなる。
「あそこを歩いて来たんだね~」と話しながら歩く。


 写真: 5峰、冒険のはじまり
4峰からはザイル(3本)を準備し、5人で数珠繋ぎになって進む。
5峰にはほとんどなかった岩場やトラバース、急な雪稜が現れはじめる。
昼近くなり気温が上がってきたためか、雪質も崩れやすい、歩きにくいものに変わってきた。
リッジ状の場所で風に吹かれると、ザイルに繋がれているとはいえ一瞬ヒヤッとする。
ちょうど手を置きたい場所にある岩が大きな浮石だったのには閉口した。
4峰を越えると、いよいよ本日の核心部へ。
写真: 4峰(※長谷川撮影)


 写真: 4峰取付き

12:30 3.4コルから3峰へ、核心部のアタック開始
4峰のピークを越えるとなだらかな下りになるが、前方に圧倒的な存在感で立ち塞がる岩峰がいきなり目前に現れる。
北尾根の核心、3峰だ。

昨年はこの3峰を前に敗退し、3.4コルから涸沢へ下山した。
「今年こそは」と思うものの、本当に越えられるのか、先輩に迷惑をかけないか、不安になる。
 昨年より2時間早く、3.4コルに到着したものの、3峰を越えるには速くて4時間はかかる。
時間的にはぎりぎりだ。
ビバークサイトは2ヶ所、上高地側の斜面に造られていた。
快適そうだが、明日の天候も不安だし、「明るいうちに前穂へ抜けられる」と読んでアタックを決定。
後から来た2パーティはビバークを決めたようだった。

しっかり休憩し、前のパーティが3峰を区切りのいいところまで越えた(と思われる)のを待って出発。


写真: 3峰、核心部(※長谷川撮影)
3峰は見た目通り、期待を裏切らない険しさだ。
テント泊用の装備一式を背負い、アイゼンを履いた足で登るのは大変だった。
アイゼンの爪を小さな岩のホールドに引っかけて、無理やりよじ登る。
一部、岩の隙間に小さな氷が張っているところがあり、そこはアイゼン、ピッケルがよく効いた。
2ピッチ目の岩を大きく左に巻き込むところとその先の直登、3ピッチ目の下部の登りが特に難しかった。

50センチ程、左右、上下に移動するだけで登りやすさが大きく変わる。
「一歩下がると登りやすいよ」という先輩のアドバイスで一歩下がると、足場になるクラックがあった。
今まで「登り中に下がる」という発想がなかったので、大きな学びになった。
ルートファインディングの重要さを痛感。


写真: 3峰の3ピッチ目位(※長谷川撮影)
 ※左下に小さく涸沢が見える

17:00 2峰ピーク、あと少し!
3峰のピークは登りの険しさに比べ、驚くほど穏やかだ。
2峰に向かう下りもほとんどなく、隣の2峰が実は3峰のピークなのでは?と思わず疑ってしまうほど、 なだらかで山頂のようには見えない。
ここまで来れば、前穂はもう目前、2峰・1峰はおまけのようなものだ。

2峰のピークに立つと、行く先には前穂高岳山頂へと続く1峰の美しいトレースが、振り返れば苦労して登ってきた北尾根と穂高連邦の山々が夕日に輝いている。
まだ山頂までは少しあるものの、「登った…」という感慨が湧いてくる。

ただ、事故は大概にして核心を抜けた後のほっとした瞬間に起こる。
最後まで気を引き締めて!


写真: 2峰




写真: 2峰の下りと1峰(前穂頂上)
※2峰の下りは唯一の懸垂下降ポイント。残置支点あり。

17:30 前穂高岳(1峰)登頂

遠き山に日は落ちて
今日の業をなし終えて

…そんな気分。感動。


写真: 山頂のケルンと奥穂高岳

17:45 奥明神沢から下山開始
…ただ、残念ながら「今日の業」はまだ終わっていない。
 北尾根完登の感動に浸る間もなく、すぐに下山を開始。
暗くなる前にトレースのはっきりしたところまで下りたい。
奥明神沢の下りはとにかく長く、疲れているとかなりシンドイ。

奥明神沢の本流に下りる頃には、真っ暗に。
岳沢小屋の灯りは、近いようで遠く、なかなか辿りつかない。
驚いたことに、私たち以外にも遅くなった人がいたらしく、南稜のかなり上方から下りてくるヘッドランプが見えた。

最後は、もうフラフラ。

20:30 岳沢到着
15時間行動はやっぱりキツイ。
一足先に下山した岳沢チームが残しておいてくれたテントに転がり込む。

テント、壊れてて入口のチャックが閉まらないし、なんか異臭がするけど、関係ない!
(※ ↑ 老朽化のため。岳沢チームのせいではない。)

やっと人心地。
夕飯を食べる余裕もなく、ビールとお茶だけ飲んで就寝。
とにかく、無事に岳沢に帰って来ることができてよかった。

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◎3日目(5/5(月))
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登山者の朝は早い。8時まで寝ているつもりだったが、周囲の物音で結局5時に目が覚める。
外は雨。山の上は吹雪の模様。昨日のうちに下山できてよかった。

岳沢チームが置いていってくれたフルーツグラノーラとモチピザを調理し、朝食。めちゃくちゃおいしい!!
しかし、もともと9人分の食料であり、昨晩夕食を抜いたとはいえ、とても食べ切れる量ではない。
残りは分けてお土産に。

他パーティーの誰かがこっそりテントの前室に入れた、割れたビールジョッキに怒りながら撤収(テントが破れるじゃないか…)。
雨の中、午前中に上高地へ下山。
途中で温泉に寄り、諏訪で蕎麦を食べて帰宅。


≪memo≫
全日程を通じて、とても楽しい合宿でした。
昨年敗退して以来の悲願だった、前穂北尾根完登!
おもしろく、登り甲斐のあるコースでしたが、同時にまだまだ力不足だと実感。
来年の合宿までに、また1年、がんばろうと思います。
北尾根チームの皆様、ありがとうございました!!

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